カエルニッキ

ド・ザイナー。

白金台 開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z


東京都庭園美術館で開催中の開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Zへ行ってきました。


朝香宮家のアール・デコを取り入れた家づくりの鑑賞です。各部屋に見どころポイントとしてキーワード入りのカードが置かれてあり、初心者にもわかりやすい展示でした。カードはA-Zまであり、お部屋の特徴のキーワードの頭文字になっています。各部屋のカードを全部揃えて、最後にリングでまとめて、一冊のカタログにできるのもステキです。ちょっと長いので、ご興味ある方は一緒に見てまわってくださいませ。

見学した各部屋にあったカードの通し番号を振り、キーワードなど載せています。(順路の関係で番号が順番じゃないところもあります。)

【通し番号.お部屋の名前】
アルファベットの元になったキーワード-意味など


【1.正面玄関】
SATINE(サチネ)-ガラスのつや消し加工のこと



正面玄関は、ルネ・ラリックのガラスレリーフの、4体の女性がお出迎え。不透明なガラスの表面の透け感が上品さを際立たせているよう。当時はこの扉が開いて使われていたそうですが、現在は閉じてます。


照明器具、床タイルも各部屋こだわりの一点もの。


玄関から受付を通って目に付く手洗い場所。


正面の階段の装飾を下にたどると、エレガントカーブな洗面所が目に止まる。鏡の上の照明の模様と、階段の装飾が同じテイストで空間の繋がりを感じます。


【2.大広間】
UNEVEN HARMONY(空間のリズム)



大広間はシンプルな直線が多く、ザ・シンメトリー。パキッと直線的な軽めの印象の装飾と、大理石の重厚感のバランスの妙。いろいろなお客様を招き入れる最初のお部屋にふさわしいのかも。


ラジエターカバーの装飾は各部屋ごとに変わっていて、全てが見どころ。


【3.次室】
PERFUMED FOUNTAIN(香る噴水)



次室(つぎのま)のアンリ・ラパンの「香水塔」。上部の噴水部分に香水つけて照明の熱で香るようにしてたことから、この名前で呼ばれているそう。各主要の部屋に行く前の控えの間ということで、全方位アール・デコでずっと見て居られる控えの間です。
(常々思うのですが、長時間待つ待合室にはこういう芸術作品があると、待ってる間も楽しくて良いなと思う)


【5.小客室】
BABBLING WATER(水のせせらぎ)



アンリ・ラパンの油彩画が壁4面に。ラパンがフランスで描いた絵が、ロール状で日本に届き、職人が念入りに壁に張られたそう。こちらは応接間として使われていたそうです。


ヒモのねじり模様も艶やかな、壁と木の縁の処理もゴウジャス。


【4.第一応接室】
TEKKO(テッコー)-壁紙メーカー製品のこと


写真左側ソファーの左側の大きな扉を開くとガラス張りになっていて、先ほど入ってきた正面玄関が見えます。



朝香宮邸には、海外から取り寄せた壁紙が多く張られていて、TEKKO(テッコー)とはスイスとドイツに拠点を置いた壁紙メーカーのことだそうです。こちらの壁紙は、1994年に施工当時の壁紙条件が揃ったもので再現されているとのこと。見る角度で模様が浮き出てきたりする変化のある壁紙です。


【6.大客室】
QUADRUPLE CREATIVITY(4人の作家)


大客室は、旧朝香宮邸の象徴になるような、アール・デコの意匠が詰まった、お部屋丸ごと美術作品の部屋。

  • アンリ・ラパン……室内設計、壁画

  • レイモン・シュブ……ガラス扉の上部半円形の装飾(タンパン)



すみずみまで見逃せない。4人の作家の仕事がうまく調和しててすばらしい。


【7.大食堂】
EAT WITH YOUR EYES(食べられそうな)


円形窓から庭園を眺めながらお食事ができる、絶景大食堂。




部屋の各所には、魚介海藻類、パイナップルなどのフルーツ等、食がモチーフになっている装飾が施されていて、楽しくお食事場所だったんだろうなと想像。


アンリ・ラパンの壁画がおいしそうな空間を作っています。

喫煙室
朝香宮家の記録映像が視聴できました。お庭で遊ぶお子様の姿が記録されていて、ちょっとした高い場所から滑っていたり、池に樽に入って大人の男性が桶を押してお船遊びのようなご様子にほのぼの。その横で白い孔雀が庭を歩いていたり、ファンタジー感もありました。


【8.第一階段】
KINSHIP WITH FLOWERS(花との暮らし)



2階へ向かいます。段ごとに連なる花模様をあしらった繋がりが美しい。朝香宮夫婦は約2年半パリに滞在し、日常的に美しいものを取り入れる豊かな暮らしをされていたそうで、帰国してからは、花を定期的に注文したり、この邸宅の庭園を育てられていたそうです。


【9.二階広間】
AIDA AND CARMEN(アイーダカルメン


二階に上がったところは広間になっていて、次女王女様がピアノの演奏で好んだとされる曲目が「アイーダ」「カルメン」なのだとか。二階はプライベート居住区になり宮内省内匠寮の技師の手により、和のテイストも取り入れられているそうです。すりガラスの窓枠が落ち着いていて良いなあと思いました。


【10.若宮寝室】
ONE OF A KIND(一点ものの)


外観の右側に見える円形窓のお部屋が、ここ若宮寝室。白壁に包まれ、朝起きて見える窓からの景色を想像したら、息を呑む美しさです。住むならこのお部屋がいいです。


各部屋統一感のあるあしらいですが、照明器具も全て各部屋に合わせられた一点ものだそうです。各お部屋の印象は照明器具だけでも記憶に残ります。


【11.合の間】
JAPANESE LUMBER, EXOTIC LUMBER(日本の木、異国の木)




朝香宮邸は鉄筋コンクリート造りですが、良質な木材も適材適所に用いられているそうです。保存状態が良い、市松模様の床は目を引きます。


【12.若宮居間】
MANTELPIECE(マントルピース)-壁付き暖炉の周りを囲む飾り部分のこと



かつての朝香宮邸時代には、各部屋にラジエーターがあり、インテリアとしてもアクセントになっていたそうです。それは外国産のさまざまな模様のある大理石が用いられていたそうです。


【13.書庫】
X(謎)


壁いっぱいに立ち並ぶ書棚に囲まれた部屋。諸本の補完を目的としているため、部屋が暗いので、いっそう謎感が深まります。どんな蔵書が置かれていたのかは不明。


朝香宮邸には謎が残る箇所がいくつか存在していて、ここ書庫には鍵のない開かずの戸棚があるそうです。


【15.殿下居間】
INVITED INSIDE A FOUNTAIN(噴水に憩う)



全方面噴水のお部屋です。噴水はアール・デコの代表的なモチーフひとつであり、壁のクロスとカーテンに抽象的なデザインで施されています。


対して、ラジエーターははっきり噴水のデザインで、対照的。壁紙とカーテンはフランスのデザイナー、エドゥアール・ベネディクトス担当。ラジエーターは宮内省内匠寮が手がけました。
真下にある次室の「香水塔」の噴水の上にあり、この共通の仕掛けを知った時にまた感動。


【14.書斎】
ROTATING DESK(回転する机)



四角いお部屋を丸く見せているお部屋です。室内装飾は本館で大活躍のアンリ・ラパン。室内装飾、家具一式全てラパンのデザインです。


デスクは台座があり回転する構図だそうです。楽しそう。


殿下居間から書斎へのドアのところ。四角い部屋を丸く見せる工夫が施されています。
お部屋の入り口までしか入れず、入り口でちょっと渋滞してました。


【16.ベランダ】
YOURS AND MINE(二人のための)



南向きで庭園が見える、日当たり良好な明るい空間。白壁に大理石の市松模様の床がモダンです。
一日中日が当たる場所で、殿下と妃殿下のお部屋からのみ行ける場所だそうです。通路に設けられていた椅子に座り、ゆっくりしていた方々もいて、こうやって寛いでいたのかなあ、と想像。


【18.妃殿下寝室】
NOBUKO, PRINCE ASAKA'S PRINCESS(允子[のぶこ]妃殿下)


允子(のぶこ)妃殿下は、この邸宅の建設に、フランスのデザイナーと直接やりとりをし、家族の意見を取りまとめていたりと、家づくりに熱心に取り組まれていたそうです。


フランスで水彩画、帰国後は油絵を習っていて、芸術にも造詣が深く、寝室のラジエータレジスターは、妃殿下が描いた下絵が元になっているそう。花と格子が組み合わされた品格のあるデザインです。



自分の邸宅のディレクションに取り組め、絵画を習っていて自らも装飾品をデザインする。なんて豊かな生活でしょうか。この部屋にきて、「豊かさ」を改めて感じました。


【17.第一浴室】
HUE IN THE AIR(空気の色)


正面の窓がベランダに続いていて、南からの光が差し込む淡い青い空間になっています。壁面、バスタブのしましまは天然の大理石の模様で、水場にぴったりあった雰囲気。


床のタイルが繊細な模様でかわいい。


【19.殿下寝室】
WILD PATTERN(天然の文様)




殿下の寝室はクスノキの木材が用いられ、特に貴重なクスノキの玉杢(たまもく)模様を装飾とした扉は、地味ですが素材を生かしたこだわりの逸品だそう。玉杢は木のコブのような場所をスライすると出ることがある、貴重な天然の文様だそうです。


【20.北の間】
CHILLED FLOOR(つめたい床)


夏の暑い季節に涼を求めて家族で過ごされた部屋だそうです。床のタイルは京都で製造された布目タイルと呼ばれる美しい美術タイル。北向きで窓からは緑の光が入る涼しげなお部屋です。


作品:伊藤公象《「土の襞」―白い光景―》陶土 2006年 作家蔵


【21.妃殿下居間】
ZEAL FOR DRESSING UP(美をまとう)




フランスではファッション誌を購読し、美の空気に触れ、滞在中に審美眼を磨いた、妃殿下のこだわりがつまったお部屋。常に美を追求していたようです。ドレスを身にまとったスナップが、日本の雑誌に載り、当時和装が一般的だった時代の女性たちの憧れだったようです。


自室に丸いベランダ、憧れます。


【22.姫宮寝室】
GRACED WITH POEMS(詩を飾る)



リカちゃんハウスにあるような、姿見付きのタンスが、ステキすぎます。「夢や憧れ」を実現しているお屋敷です。



収納の扉に短冊や詩を飾るための、浅いくぼみが作られています。お気に入りの詩を飾って楽しまれていたそうです。かわいらしい。この姫宮寝室と、隣の姫宮居間の壁紙は、竣工当時のままだそうです。当時のカタログに「退色せず、水洗いが可能で虫に浸されない」とあったそうです。90年たった今も現役で、優れものです。


【23.姫宮居間】
VARIETIES OF PINK(いくつものピンク)


丸い鏡がまたリカちゃんハウスみたいなかわいらしさ。(←こればっか)


天井の照明にある透かしもお花の模様でお姫様のお部屋です。


キーワードがピンクなのですが、壁紙、暖炉などピンクがあしらわれているそうです。壁はピンクがわかりにくいですが、暖炉の中のタイルはピンクがわかりました。
作品:須田悦弘《ユリ》木に彩色 2024年 作家蔵


3階への階段。


【24.ウインターガーデン】
DEEP ATTACHMENTS AND GOOD EYES(愛着と目利き)


3階最上階のウインターガーデンは修復工事が2003年に終了し、初めて一般公開された場所です。記録は残ってないようですが、ガラス窓に囲まれたお部屋は、温室のように使われていたのではと言われています。


ベランダと同じく、光を取り込んだ空間に、白壁に大理石の市松模様の床が映えます。



窓がたくさんあり、外気を入れる調整ができそうなのと、床に水が流せる仕様になっていました。




3階から1階へ一気に降りる順路。丸窓がモダン。


廊下のあたりの照明


【25.小食堂】
FRANCE AND JAPAN(フランスと日本)



アール・デコ様式を取り入れたお屋敷ですが、和のテイストもしっかり取り入れられているのがわかるのが小食堂。



らんまのようなの通気口、杉を使用した天井、床の間のスペース。


ラジエータレジスターデザインの源氏香の図は、源氏物語の巻名から名をとった古来の幾何学文様で、優雅と格式を添えた装飾です。

今でこそ大河ドラマ『光る君へ』の影響で源氏物語にも注目していましたが、皇族の皆様は当たり前のように源氏物語がお好きなのかな、とちょっと思いました。



この後の順路は庭園から新館へいざなわれます。通り道のドアの装飾も確認。


【26.庭園】
LIVING CREATURES(生きものたち)



本館から新館へ通り道からの眺め。記録映像で見た白い孔雀が庭をふわふわ放し飼いにされていたのは印象強かったです。


竣工時に購入した植栽や、旧朝香宮邸が建つ以前より自生している推定樹齢200年以上の木々がいまもあるそうです。この季節は新緑がとても美しいです。

【ギャラリー】

新館のギャラリーにて、さいごにおさらいコーナーです。
今まで見てきた壁や床財、家具や備品などの装飾品がピックアップされて詳しく説明されていました。


各部屋無料で配布しているA-Zまでのカードは、最後作業台の上でリングでまとめることができました。各カードに解説とビジュアルがあって(中にはイラスト、写真違いの複数枚あり)、全部揃えると一冊のカタログになる仕様です。
今回の、美へのこだわりと豊かな感性を感じられた記念になりました。


カードにあるキーワードを探しながらの展示を見てまわる方式は、ちょっと宝探しみたいで楽しかったです。それと、すべてのフロアで、節度を持った写真撮りホーダイですばらしい展示構成でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。おつかれさまでした!

開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z
期間:2024年2月17日(土) - 5月12日(日)
休館:毎週月曜日 ただし4月29日・5月6日は開館、4月30日(火)・5月7日(火)は休館
時間:10時 〜 18時
料金:一般1,400円/大学生(専修・各種専門学校含む)1,120円/中学生・高校生700円/65歳以上700円
場所:東京都庭園美術館(本館+新館)

24.05.12